高齢者分野で先に組み上がった地域包括ケアシステムと、令和3年に始まった重層的支援体制整備事業は、よく似た言葉で語られる。根拠法・対象・中心にある機関・対応する計画で並べ、厚生労働省がいま両者をどう位置づけているかと、壱岐市の現在地を一次資料で示す。
調査基準日 2026年9月16日。条文は e-Gov 法令検索の現行版。改正社会福祉法(令和8年6月25日公布)で令和9年4月1日に施行される条は「改正後」と添えた。壱岐市の窓口は、市の計画本体・要綱・掲載ページで確認できたものだけを載せ、取れなかった項目には 未確認 を付けている。引用の頁は印字頁。
このページは制度どうしの関係を整理したもの。第4次地域福祉計画で決めることは 第4次地域福祉計画の論点、介護保険事業計画の見込値と実績は 介護保険事業計画 第7期・第8期の検証、福祉分野の計画どうしの関係は 地域福祉計画と関連計画の体系整理 にある。
厚生労働省の検討会議の中間とりまとめ(令和7年5月28日)は、包括的な支援体制を「既存制度活用アプローチ」と「機能集約化アプローチ」の2つの道で全市町村に広げるとし、脚注に「地域包括ケアを中心に構築することも考えられる」と書いた。壱岐市の第4次地域福祉計画が選ぶ三択(重層/小規模市町村事業/既存制度の活用)は、この2つのアプローチとそのまま対応する(Ⅵ章)。
似ているのは「包括」「地域」「一体的」という語。違うのは、根拠法・対象・中心にある機関・対応する計画。
| 項目 | 地域包括ケアシステム | 重層的支援体制整備事業 |
|---|---|---|
| 根拠法・条文 | 地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律(医療介護総合確保促進法)2条1項。「地域包括ケアシステム」を定義する | 社会福祉法106条の4。同法106条の3が市町村の努力義務とする「包括的な支援体制」を整備するための施策の1つ |
| 法律上の性格 | 体制の定義。医療、介護、介護予防、住まい、自立した日常生活の支援が「包括的に確保される体制」。市町村は介護保険法の地域支援事業や介護保険事業計画を通じてこれを組み立てる | 任意の事業。市町村は「重層的支援体制整備事業を行うことができる」(106条の4第1項)。義務ではない |
| 対象 | 高齢者。条文は「高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」 | 「地域生活課題を抱える地域住民及びその世帯」(106条の4第2項)。年齢や属性で入口を切らず、世帯を見る |
| 何を包括するか | 医療・介護・介護予防・住まい・生活支援というサービスの種類を、高齢者1人のまわりで束ねる | 介護・障害・子ども・生活困窮という制度の分野を、世帯のまわりで束ね、そこに参加支援・アウトリーチ・多機関協働を足す(Ⅱ章) |
| 中心にある機関 | 地域包括支援センター(介護保険法115条の46)。総合相談支援・権利擁護・包括的継続的ケアマネジメント支援を担う | 新しい機関は置かない。106条の4第3項が連携を求めるのはこども家庭センター、地域包括支援センター、基幹相談支援センター、生活困窮者自立相談支援事業を行う者の4種 |
| 対応する計画 | 市町村介護保険事業計画(介護保険法117条)。壱岐市では高齢者福祉計画と1冊 | 市町村地域福祉計画(社会福祉法107条)。同条1項5号が「地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備に関する事項」を記載事項とする。重層を実施するときは実施計画(106条の5)を努力義務で策定し、地域福祉計画・介護保険事業計画・障害福祉計画・子ども・子育て支援事業計画と「調和が保たれたものでなければならない」(同3項) |
| 始まり | 平成26年6月。医療介護総合確保推進法による定義 | 令和2年6月の社会福祉法改正で創設、令和3年4月施行 |
| 壱岐市の計画での現れ方 | 第3次地域福祉計画 p.47「地域包括ケアシステムの充実」。高齢者福祉計画・第9期介護保険事業計画 | 第3次地域福祉計画 p.36「重層的支援体制整備事業」の項(Ⅵ章) |
「地域包括ケアシステム」とは、地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防(要介護状態若しくは要支援状態となることの予防又は要介護状態若しくは要支援状態の軽減若しくは悪化の防止をいう。)、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制をいう。 地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律 2条1項(e-Gov 法令検索、2026年9月16日確認)
「重層的支援体制整備事業」とは、次に掲げるこの法律に基づく事業及び他の法律に基づく事業を一体のものとして実施することにより、地域生活課題を抱える地域住民及びその世帯に対する支援体制並びに地域住民等による地域福祉の推進のために必要な環境を一体的かつ重層的に整備する事業をいう。 社会福祉法 106条の4第2項(同)
106条の4第2項は6つの事業を並べる。1号と3号は既存の事業を「全ての事業を一体的に行う」こと、2号・4号・5号・6号は新しく足す機能。地域包括支援センターは、この束の中にいる。
地域包括支援センターの業務のうち、在宅医療・介護連携(同項4号)と認知症総合支援(6号)は重層の束に入らない。高齢者分野の全部が重層に移るのではなく、相談の入口と地域づくりの部分が共通化される。
厚生労働省の令和8年度予算資料はこの3つを「既存制度のみでは直ちに対応が難しい支援ニーズへの対応力を向上させるための多機関協働事業等」と説明し、事業の目的を「主に体制整備初期段階で活用し、既存制度・機関の支援者の対応力強化と既存制度・機関間の連携強化を図り、包括的な支援体制の整備を促進することを目的とする」と書く。注には、将来「既存制度の活用に移行していくことも考えられる」ともある(p.1)。
財源と広がり方は 第4次地域福祉計画の論点 のⅤ章にある。一括交付金で、多機関協働事業等の国庫負担は開始5年で下がる。実施市町村は令和3年度42、令和7年度471、令和8年度586(予定)。
2つの仕組みの違いは、1人を見るか世帯を見るかで現れる。以下は仮想の例で、特定の事例ではない。
80歳の母に認知症の疑いがある。相談は地域包括支援センターに入り、総合相談支援から要介護認定、ケアマネジメント、認知症初期集中支援、かかりつけ医との連携へ進む。介護保険法の地域支援事業と保険給付で組み立てられ、母の課題だけならこの範囲で完結する。
同居の50歳の息子は長く無職で、家計が細り、母が亡くなった後の住まいも見えない。息子の課題は介護保険の外にある。生活困窮者自立相談支援(家計・就労)、ひきこもり支援、必要なら障害福祉、住宅の部門が関わる。どの窓口が世帯全体の方針を持つかが決まらないと、それぞれが自分の制度の範囲で終わる。重層の多機関協働(106条の4第2項5号・6号)は、この「方針を1つにする体制」と「支援の計画の作成」を市町村の事業として置く。
地域包括支援センターは重層の外にあるのではない。母の相談を受けた地域包括支援センターは、重層の1号事業(包括的相談支援)の一部として、息子の課題を多機関協働へつなぐ位置にいる。逆に、重層を実施していない市町村にも106条の3の努力義務はある。関係機関が集まる支援会議は、現行の106条の6では重層の実施が前提だが、改正後は106条の3の2へ移り、重層をやっていない市町村でも組織できる(令和9年4月1日施行)。
国の整理を1枚にすると次の形になる。矢印は法律上の位置づけで、指揮命令の系統ではない。
令和2年改正法の附則が施行5年後の見直しを求め、厚生労働省の「地域共生社会の在り方検討会議」が令和6年6月から10回の議論を経て中間とりまとめを出した。その1年後に改正法が公布された。
| 時点 | 資料 | 記述 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 2025.5.28 | 中間とりまとめ p.9 | 重層的支援体制整備事業が「1つの手段として位置づけられている」。106条の3が市町村に求める体制を示すのに対し、106条の4は「それを実現していくための1つの手法として、事業を法定化しているものである」 | 体制(106条の3)と手段(106条の4)を分ける。重層は体制の名前ではない |
| 同 | 同 p.13 | 「生活困窮者自立支援制度を中心に介護保険制度などの既存制度を活用する中で連携体制の強化により構築する方法」=「既存制度活用アプローチ」と、「過疎地域等における柔軟な仕組みにより包括的な相談支援や地域づくりを構築する方法」=「機能集約化アプローチ」 | 全市町村を2つの道で進める。あわせて「医療・保健分野等との連携体制を構築している地域包括ケアシステムとの連動を図ることも必要である」 |
| 同 | 同 p.13 脚注19 | 「既存制度活用アプローチは、生活困窮者自立支援制度を中心に構築する場合のほか、地域包括ケアを中心に構築することも考えられる。」 | 高齢者分野の網が強い市町村は、地域包括ケアを中心に包括的な支援体制を組める |
| 同 | 同 p.15 | 重層は2つのアプローチを進めるための「1つの手段・推進策」であり、「事業を実施することが包括的な支援体制の整備とイコールではないことを改めて関係者間で共通認識とする必要がある」 | 重層をやる=体制ができた、ではない |
| 令和8年度 予算案 | 厚生労働省 令和8年度当初予算案 説明資料 p.1 | 「主に体制整備初期段階で活用し、既存制度・機関の支援者の対応力強化と既存制度・機関間の連携強化を図り、包括的な支援体制の整備を促進することを目的とする」。注に「既存制度の活用に移行していくことも考えられる」 | 重層は足場として描かれる。恒久の上位組織ではない |
| 2026.6.25 公布 | 改正社会福祉法。通知 第1-5(3)・第10-1 | 小規模市町村地域支援連携協働体制整備事業を新設(改正後106条の6)。対象は「その人口規模、その人口の減少の状況等からみて福祉サービスを提供する体制の確保に支障を生じ、又は生ずるおそれがあると認められる市町村として厚生労働省令で定める基準に該当するもの」。令和9年4月1日施行 | 機能集約化アプローチの法定化。支援会議は106条の3の2へ移り、重層をやっていなくても置ける |
中間とりまとめは検討会議の文書で、厚生労働省の決定そのものではない。ただし翌年の改正法が機能集約化アプローチを条文にしており、方向は国の制度に取り込まれている。
106条の4第3項が連携を求める4種類の機関に当てると、壱岐市は4分野の窓口をすべて持っている。ただし基幹相談支援センターは未設置で、重層の実施は公表資料で確認できない。
| 分野 | 法律上の機関・事業 | 壱岐市 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 高齢 | 地域包括支援センター(介護保険法115条の46) | 壱岐市地域包括支援センター。長寿支援課に置く市直営。第3次地域福祉計画は「高齢者を支える地域包括支援センターにおいては、社会福祉協議会との間で事例検討や意見交換等を定期的に実施しています」と書く | 壱岐市行政組織規則(令和7年6月1日施行)/第3次地域福祉計画 p.35 |
| 障害 | 基幹相談支援センター(障害者総合支援法77条の2)/相談支援事業(同77条1項3号) | 基幹相談支援センターは未設置。第7期障がい福祉計画は「最終的には、基幹相談支援センターの設置を目標とし」と書く。相談支援事業所は3か所で、うち1つが壱岐市社協障害者相談支援センター。障がい者の相談窓口は壱岐障害者地域活動支援センター(市民福祉課) | 第7期障がい福祉計画 p.14・p.39・p.55/第3次地域福祉計画 p.35 |
| こども | こども家庭センター(児童福祉法10条の2)/利用者支援事業(子ども・子育て支援法59条1号) | こども家庭センター いきいろ。こども計画は「令和5年度よりこども家庭センターを設置し」と書く。子育て支援課、芦辺庁舎1階。第3次策定時は健康増進課内の子育て世代包括支援センター。利用者支援事業としての実施は 未確認 | 壱岐市こども計画 p.30・p.42/第3次地域福祉計画 p.35/市ページ「個別相談・教室について」 |
| 生活困窮 | 自立相談支援事業(生活困窮者自立支援法3条2項) | 壱岐市生活相談支援センター。実施要綱(平成26年告示第100号)3条が名称を定め、2条は市を実施主体としつつ法人への委託を可能とする。市ページは社協内に平成27年4月1日開設と説明 | 壱岐市生活困窮者自立支援事業実施要綱/市ページ「その他(相談案内や福祉関連行事)」/第3次地域福祉計画 p.40 |
第3次(令和4年3月)は基本目標1「安全・安心を確保する」の具体的施策に「重層的支援体制整備事業」の項を置く。
市全体で「属性(分野)を問わない相談支援」、「参加支援」及び「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的に実施することで、包括的な支援体制の充実に努めます。 第3次壱岐市地域福祉計画 p.36(「」の入れ子は原文のまま)
同じ節には「地域ケアマネジメント体制の充実」として「高齢者や障がい者あるいは子育て等、各分野にわたる相談支援やサービス調整の機能を集約する体制の一層の充実に努めます」ともある(p.36)。地域包括ケアは別の節、基本目標2「地域福祉サービスを充実する」に置かれ、対象は高齢者に限る。
高齢者がいつまでも住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを続けることができるように、住まい、医療、介護、予防、生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の充実を目指します。 同 p.47「地域包括ケアシステムの充実」
厚生労働省が公表している重層的支援体制整備事業への移行準備事業の実施自治体一覧(令和4年度・令和6年度・令和7年度)に、壱岐市は無い。長崎県内で載るのは、令和4年度に五島市・長崎市・西海市・佐々町、令和6年度に佐世保市・平戸市・西海市、令和7年度に平戸市。本事業の実施自治体の一覧は今回見つけられなかったため、「実施していない」とまでは言えない。五島市は第3期地域福祉計画に重層の実施計画を章立てしている(離島3市の地域福祉計画Ⅲ章)。
| 第4次で選ぶ型(論点ページⅥ章) | 国の整理(中間とりまとめ) | 壱岐市に既にあるもの、足りないもの |
|---|---|---|
| ①重層的支援体制整備事業 社会福祉法106条の4 |
2つのアプローチを進めるための「1つの手段・推進策」 | 4分野の相談窓口はそろっている。足すのは参加支援・アウトリーチ・多機関協働の3機能と、目標と達成状況の評価を含む実施計画(改正後106条の5) |
| ②小規模市町村地域支援連携協働体制整備事業 改正後106条の6、令和9年4月1日施行 |
「機能集約化アプローチ」。「過疎地域等の小規模な市町村」向けに「現行の重層的支援体制整備事業とは別に」置く | 対象の基準は厚生労働省令待ち。壱岐市が該当するかは県への照会が要る |
| ③既存制度の活用 | 「既存制度活用アプローチ」。脚注19「地域包括ケアを中心に構築することも考えられる」 | 地域包括支援センターと社協の定期の事例検討、地域ケア推進会議が既にある(第3次 p.35)。中間とりまとめは連携体制を「改めて市町村において確認・検証の上、連携強化を図る必要がある」とする(p.13)。その確認をどう第4次に書くか |
どの型を選んでも、地域福祉計画には107条1項5号の「地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備に関する事項」を書く。型の選択は目的ではない。中間とりまとめの言い方を借りれば、事業の実施と体制の整備は「イコールではない」。