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地域公共交通計画(2026〜2031年度)
― 1乗車あたりの公費で読み直す

令和8年3月策定。計画本体と、国庫補助金の応募様式・個別事業評価調書・住民基本台帳を突き合わせ、路線バスと公共ライドシェアに投じられている公費を1乗車あたりに換算した。

調査基準日 2026年8月23日。金額は特記なき限り千円。輸送人員は推計値(算出方法と検証はⅠ章)。

先に結論

468円
路線バスの1乗車あたり公費(2024年度)
2015年度は228円で2.05倍
+23.9%
同期間の市補助金の伸び
輸送人員は▲39.7%
約15倍
系統間の開き(推計)
幹線226円 ⇔ D区分4,278円
956円
公共ライドシェア2地区(2024年度)
1,130円から低下。バスと逆向き
4.35回
75歳以上1人あたり年間回数
2015年度8.82回から半減。人口は横ばい

計画から読み取れるのは、①補助総額は微増でも分母が痩せ、1乗車あたりの公費は10年で倍増した、②その負担は系統間で約15倍の開きがあり、転換検討対象の系統に集中している、③公共ライドシェア2地区は単価が下がっており、路線バスと傾きが逆を向いている、④75歳以上の利用は半減したが同年齢層の人口は横ばいで、人口減では説明できない、⑤実証事業の想定単価は現行の路線バスを上回っており、「デマンドにすれば安くなる」とは現時点の数字からは言えない、の5点です。

本ページは公開資料のみを用いたIKILABの独立分析であり、壱岐市の見解ではありません。計画に数値記載のない項目は仮定を置いた推計です。仮定と誤差の向きは各章に明記しました。

Ⅰ. どんな資料から、どう計算したか

計算そのものは単純だが、分母になる輸送人員が計画に載っていない。この推計の妥当性が、以下すべての前提になる。

項目内容出典
計算式1乗車あたり公費 = 市補助金 ÷ 輸送人員―
分子(市補助金)地方バス路線維持費補助金。2024年度実績 85,742千円。財源は全額が市の一般財源(国庫支出金・県支出金はゼロ)。75歳以上運賃割引と通学定期助成を含む個別事業評価調書(令和6年度)
分母(輸送人員)計画に年次系列の数値記載がなく、端点とグラフのみ。「75歳以上利用者数」と「全体シェア率」から各年を逆算した計画 p.18
推計の検証①逆算値の2015年度は 303,519人。計画本文の「2015年 304,830人」とほぼ一致する計画 p.17
推計の検証②市の「バス乗降客数」実績は R2年度175千人・R5年度200千人・R6年度182千人。逆算値(175,327/199,342/183,046人)とほぼ一致個別事業評価調書(令和2〜6年度)
残る不一致計画本文の「2024年度 総輸送人員 151,800人」だけが、上記いずれとも噛み合わない。要確認 Ⅵ章 2 を参照計画 p.17
計画の版市が「策定しました」として掲載しているPDF(111ページ、PDF作成日2026年3月25日)を取得し、本ページの数値とⅥ章の指摘が、いずれもこのPDF上に現存することを照合しました(2026年8月23日。SHA-256 a4823adf…)。突合したのは系統別表(p.20-21)・75歳以上の系列(p.18)・空路(p.26)・評価指標(p.42-43)です。なお、このPDFには「(案)」付きの見出しが表示されたまま残っています(Ⅵ章 7)照合済壱岐市地域公共交通計画の策定について(掲載ページ)/同 計画本文PDF
75歳以上人口住民基本台帳(各年3月31日現在)から、75〜79・80〜84・85〜89・90〜94・95〜99・100歳以上を合算。年度はその年度初日にあたる3月31日時点と対応させた統計データ集 3-3

Ⅱ. 公費はどう推移したか

補助総額だけを見ていると、この10年は「やや増えた」に見える。分母を入れると景色が変わる。

① 1乗車あたりの公費 ― 10年で2.05倍

路線バスは上昇、公共ライドシェア2地区は低下。単価の水準ではなく、傾きの向きが逆であることが、この2つのモードの違いです。

路線バス 公共ライドシェア(初山・箱崎)

路線バス=市補助金÷輸送人員(推計)。公共ライドシェア=(費用−運賃収入)÷利用者数、初山・箱崎の合計。なお本ページでは、計画で「乗合タクシー」と呼ばれている初山・箱崎の運行を、制度名(道路運送法78条2号・交通空白地有償運送=公共ライドシェア)で表記しています。理由はⅥ章 6 を参照。

② 市補助金と経常赤字 ― 補助を増やしても差が開く

経常赤字 市補助金 市補助金でカバーされていない部分

2本の線の間隔は、2015年度の18,556千円から2024年度の39,068千円へ2.1倍。なお個別事業評価調書によれば地方バス路線維持費補助金の財源は全額が市の一般財源ですが、計画p.39は系統1・12に国庫補助(地域間幹線系統補助)、系統3に県単補助が付くと記載しています。これらは市の予算を通らず県の協議会経由で事業者に直接交付されるため、この間隔のなかに含まれています。

年度経常収益経常費用経常赤字市補助金差輸送人員(推計)1乗車あたり公費

金額は千円。2022年度と2023年度は計画上まったく同じ数値が並んでおり、実績と異なる可能性があります(Ⅵ章 1)。

Ⅲ. どこに、いくらかかっているか

計画の系統別表(p.20–21)には系統別の輸送人員がなく、市補助金も系統に配分されていない。経常収入を平均運賃206.0円(総経常収入37,714千円÷総輸送人員183,046人)で割って人員を推定し、系統別の経常赤字を割ったうえで、市の補助カバー率68.7%を掛けた。

① 系統別の1乗車あたり市負担(推計)

縦線=全系統平均468円。橙=計画p.36が「日中のみ運行」として転換検討の対象に挙げた11系統。なお転換検討対象はこのほかに、高校生時間帯だが需要が極端に少ない7系統(5・8・9・14・16・17・27)を含む計18系統で、実施事業1-2の対象系統リスト(15系統)とも範囲が一致しません。

A区分の幹線(系統1・3・12)が226〜316円、最も効率の高い系統26が49円なのに対し、D区分は3,963〜4,278円。約15倍の開きがあります。

この推計は「平均運賃が全系統で同じ」という仮定に立っています。実際の平均運賃は、高校生定期と75歳以上100円施策の比率によって系統ごとに異なります。誤差の向きは一定で、学生定期比率の高い系統(26・24・3・15)は1乗車あたりが過大に、空港線(系統23)など正規運賃客中心の系統は過小に出ます。転換検討対象のD区分・日中C区分は一般客中心で、この仮定が比較的当てはまります。

系統評価運行区間経常収入経常費用経常損益収支率推定人員市負担/乗車

金額は千円。橙字=日中のみ運行の転換検討11系統。

② 初山・箱崎 ― 単価の動きが分かれた2地区

初山 / 令和3年度〜

1,130円 → 829円(▲27%)

  • 利用者数は516人(R3)から2,869人(R6)へ5.6倍
  • 公費総額は583千円から2,379千円へ増えているが、利用の伸びが費用の伸びを上回った
  • 「デマンド交通は規模が出れば単価が下がる」ことの、島内での実証データになる
箱崎 / 令和5年度〜

1,256円 → 1,330円(+6%)

  • 利用者数は866人(R5)から977人(R6)へ12.8%の伸び
  • 費用が18.9%増えたため単価が上がった
  • 計画の課題分析が「箱崎地区では乗継の不便さやルートの問題から利用者数が横ばいにある」と記していることと数字が一致する
地区年度利用者数費用運賃収入公費1乗車あたり公費

金額は千円。公費=費用−運賃収入。箱崎は令和5年度の運行開始のためR5からの記載。

Ⅳ. 誰が使わなくなったのか

75歳以上のバス利用は10年で48,563人から23,796人へ半減した。一方で同年齢層の人口は5,506人から5,467人(▲0.7%)とほぼ横ばい。総人口が▲14.9%減るなかで75歳以上だけは人数が維持され、人口に占める比率はむしろ19.5%から22.8%へ上がっている。

① 1人あたり年間利用回数 ― 8.82回から4.35回へ

75歳以上の年間バス利用者数(延べ)÷ 75歳以上人口。1回100円で乗れる施策があってなお、ちょうど半分になっています。

年度75歳以上 バス利用(延べ)75歳以上人口1人あたり年間利用回数総人口75歳以上比率

② コロナによる一律の外出減では説明できない

島外への移動を見ると、空路(長崎〜壱岐)は2024年度にほぼ完全に回復しています。一方で島内の路線バスだけが2019年度の水準に戻っていません。同じ島民の同じ時期の行動でありながら差が出ている以上、バス固有の要因を探す必要があります。

空路(長崎〜壱岐) 路線バス 総輸送人員 路線バス 75歳以上

2019年度を100とした指数。空路の実数は計画p.26より。

③ 年齢構成の変化は、効くが主因ではない

年齢階層2015年度2020年度2024年度2015→2024

85歳以上の比率は35.5%から39.0%へ3.5ポイント上がっています。ただし仮に85歳以上の利用頻度が75〜84歳の半分だとしても、この構成変化が全体の1人あたり回数を下げる効果は2%程度で、半減の説明には足りません。

④ 仮説と検証手段

この数字を、住民が外出を「諦めた」結果だと読みたくなります。しかしそう結論づける前に、順序があります。先に別の要因で説明できる分を差し引かないと、本来は供給の減少や通院回数そのものの減少だったものまで「諦め」に計上されます。

#仮説内容検証に必要なデータ住民調査

「住民調査」=抑制トリップ調査で拾えるかどうか。○が付くのは4つだけで、残りは住民に聞いても出てきません。

検証の順序が結論を左右します。①②で前提を確定し、⑤⑥を行政データで概算したうえで、残差を③⑦⑧として住民調査で埋める——この順であれば「諦め」の大きさを過大に見積もらずに済みます。逆に住民アンケートで先に「諦め」を聞いてしまうと、実際には供給の減少や通院回数の減少だったものまで、そこに計上されます。

Ⅴ. これから始まる実証事業と、どうつながるか

2026年10月から3か月、郷ノ浦の一部と勝本・芦辺・石田の全域で、公共ライドシェア(事業者協力型)による区域デマンド交通の実証運行が予定されている。運賃1回500円、月〜土の8時〜13時。

比較対象1乗車あたり公費内訳
転換検討11系統(現行の路線バス)1,841円経常収入3,460千円・経常費用48,468千円(収支率7.1%)。赤字45,008千円 ÷ 推定16,793人 × 補助カバー率68.7%
実証事業(運行経費ベース)3,058円運行経費6,490千円 − 運賃収入912千円 ÷ 見込利用者1,824人
実証事業(全体費用ベース)10,039円事業費19,222千円 − 運賃収入912千円 ÷ 同。システム構築費が事業費の約半分を占める

この表は2つのことを同時に示しています。ひとつは現行のままでも1乗車1,841円かかっているという点。もうひとつは実証の運行経費ベース3,058円が現行を上回っているという事実で、「デマンド交通にすれば安くなる」とは現時点の数字からは言えません。

全体費用ベースの10,039円は、システム構築費と3か月・小規模という条件を含むため定常運行の単価ではありませんが、注目されやすい数字です。損益分岐は利用者数で決まり、運行経費ベースで現行水準(1,841円)に並ぶには実証エリアで年約29,000人の利用が必要な計算になります。単年の単価を比べるより、この損益分岐と、路線バス(上昇)・公共ライドシェア(低下)の傾きの違いで見るほうが実態に近いと考えます。

Ⅵ. 議論の前に確認すべき点

計画の数値を議論に用いる前に、確認しておきたい点。いずれも公開資料を突き合わせる過程で気づいたもので、指摘というより照会です。このうち1・2・5については、市の個別事業評価調書と突き合わせて確認しています。

  1. 数値2022年度と2023年度の数値が同一。経常収益45,067/費用161,242/損益▲116,175/補助75,399が2年分そのまま並んでいます。個別事業評価調書のR5年度(2023年度)実績は74,965千円で、計画の75,399千円と一致しません。75,399千円はR4年度の額です。2023年度列は2022年度の複製とみられ、この年の4項目はいずれも実績と異なる可能性があります。
  2. 数値「2024年度 総輸送人員151,800人」が他の資料と噛み合わない。75歳以上利用者のシェア率からの逆算は約183,000人、評価指標「1人あたり481円」の逆算分母は178,258人、個別事業評価調書の「バス乗降客数」は182千人。151,800人だけが離れています。
  3. 定義評価指標「路線バス・コミュニティ交通の維持に係る市財政負担額 85,742千円」が、路線バス単独の補助金額と一致する。コミュニティ交通(2024年度で約3,678千円)が含まれていない可能性があり、含めるなら約89,420千円になります。指標の対象範囲のご確認をお願いしたい点です。
  4. 定義「利用者一人あたりの市財政負担額」の「一人」は、実人数ではなく延べ乗車回数とみられる。同じ表の「市民一人当たり利用回数 8.2回」は実人数が分母であり、同一の表のなかで「一人当たり」が2通りの意味で使われています。
  5. 定義「75歳以上市民一人当たり利用回数 1.0回」の分母が、総人口である可能性。23,796人÷5,467人(75歳以上人口)=4.35回ですが、23,796÷23,995(令和6年3月31日現在の総人口)=0.99で記載値とほぼ一致します。この場合、目標値「1.0回以上」は現状すでに達成済みの水準となり、指標として機能しないおそれがあります。あわせて「市民一人当たり8.2回」も、185,782÷23,995=7.74回で一致しませんでした(住基のどの年次で割っても8.2にはならず、最も近いのは令和8年3月末の8.08回)。
  6. 表記初山・箱崎の呼称が計画内で4通りに分かれている。「乗合タクシー」(p.23見出し・評価調書の事業名)、「公共ライドシェア(市町村有償運送)」(p.23本文)、「コミュニティ交通」(p.43評価指標)、「新交通システム」(p.43・市民アンケート)。法制度上はいずれも道路運送法78条2号の交通空白地有償運送で、実証事業(事業者協力型)と同じ種別です。国の用語体系では78条2号は「公共ライドシェア」とされています。制度名を統一し、「乗合タクシー」は将来タクシー事業者が4条乗合で参入する場合のために空けておくほうが、市民にとっても分かりやすいのではないでしょうか。
  7. 表記公開されている計画に、「(案)」付きの見出しが残っている。掲載ページ(2026年4月3日更新)は「『壱岐市地域公共交通計画(2026年~2031年)』を策定しました」と記していますが、そこからリンクされているPDF(111ページ、PDF作成日2026年3月25日、SHA-256 a4823adf…)には、p.36「再編イメージ(案)」・p.43「評価指標と達成目標(案)」が表示されたまま残っています。あわせて表紙には「素 案」の文字がテキストとしては存在するものの、白で描画されるため画面には現れません(ページを画像化して画素を数え、表示されないことを確認しました。文字列検索やコピーでは出てきます)。素案の版を下敷きに作られたことがうかがえます。2026年8月23日に取得して確認しました。上記1〜6の指摘は、いずれもこのPDF上に現存します。パブリックコメントや地域公共交通会議を経た修正が反映された版が別にあるのか、この版をもって確定としているのかで、1〜6の扱いが変わります。差し替えのご予定を含めて確認をお願いしたい点です。
  8. 記録本ページの根拠のひとつが、市サイトから参照できなくなっている。Ⅵ章 1・2・5 の裏づけに用いた個別事業評価調書は「事務事業評価結果(所管別)」として公開されていましたが、2026年8月23日時点で平成30年度・令和3年度・令和5年度・令和6年度のいずれのページも参照できません。所管である共創推進班の分類一覧にも「政策評価」が見当たらず、カテゴリごと外れているとみられます(同じ組織階層の統計データ集は参照可能)。行政評価は事業のPDCAを外部から検証するための資料であり、過去分のアーカイブ公開には改善余地があります。本ページの数値は、公開されていた時点で取得したPDFに基づいています。
  9. 未公開公開されると議論が進むデータ。本ページで置いた仮定の多くは、次のデータがあれば外せます。いずれも市と交通事業者が保有しているはずのものです ── 路線バスの輸送人員の年次実数(および系統別)/系統別の定期・定期外・75歳以上の内訳/長崎県の地域公共交通確保維持事業の系統別交付額/事業者が運輸局に提出する事業報告書(乗合事業の収支計算書)/スクールバスの委託料。年8,574万円の公費が投じられている事業について、市民も市と同じ数字を見ながら議論できるようになるという意味で、公開の価値は大きいと考えます。
  10. 次の問い ── 移動に関わる公費の全体像。路線バスだけを見て「1乗車468円」と言っても、同じ市民の同じ移動に、障害者福祉タクシー助成・移動支援事業・本土通院等航路運賃支援・社会福祉協議会の外出支援などが、別の窓口から乗っているかもしれません。現時点で確認できた範囲でも、市民の移動に関わる公費は総務課・市民福祉課・健康保険課・教育委員会・地域共創課・社会福祉協議会に分散しており、「移動」という切り口で束ねた資料は見当たりません。全体像が見えないまま、路線バスの部分最適だけを議論している可能性があります。